理事長挨拶
一般社団法人 音楽療法振興協会
理事長 早川 和重
医療では、医療技術の提供とともに病に罹患したことにより生じる様々な苦痛(トータルペイン)(身体的苦痛・精神的苦痛・社会的苦痛・スピリチュアルペイン)への対応が重要です。とくに、がん、難病、精神疾患等に罹患した患者への心のケアでは、医療者の対応のみでは苦痛を緩和できないことが少なくありません。また、患者の家族を含めた総合的なケアを要することもしばしばです。がんを例にとると、平成19年4月1日に施行された「がん対策基本法」ならびに本法に基づく「がん対策基本計画」では、「がん医療に携わる医療従事者への研修や緩和ケアチームなどの機能強化等により、がんと診断された時から患者とその家族が、精神心理的苦痛に対する心のケアを含めた全人的な緩和ケアを受けられるよう、緩和ケアの提供体制をより充実させる」ことが重要課題の一つに挙げられています。今日、アメリカやヨーロッパ諸国では、患者の苦痛を効果的に緩和する有効な方法として音楽療法は広く認識されており、医療に取り入れられております。
医療における音楽療法とは、臨床的かつエビデンスに基づいた音楽の使用法であり(米国音楽療法学会AMTA)、専門的なトレーニングを受け資格を持った音楽療法士が、個々の対象者にあわせて音楽を適用する方法です。音楽療法士は対象者との治療関係の中で、音楽を意図的に使用することによって対象者の心身の健康のニーズに応えていきます。目的となるニーズは対象者によって異なり、医療においては主にトータルペインの緩和やQOLの向上、感情表現の場の提供、ご家族の支援などを目標として導入されます。音楽療法セッションはそれぞれの対象者の音楽的嗜好、身体的、精神的ニーズに基づいたオーダーメイドとなります。
しかしながら、わが国では、医療として用いる音楽療法の認識が十分でないため、医療の中に音楽療法を取り入れ、実践していく環境が整備されていません。
従って、速やかな音楽療法の実地医療への導入がトータルペイン対応を必要とする多くの患者とその家族の期待に応える喫緊の課題の一つと考え、医療としての音楽療法の普及・啓発を目的として本法人を設立することと致しました。
本法人は、広く一般市民を対象として、がん等の難病に罹患した患者とその家族の精神的苦痛(スピリチュアルペイン)などを緩和するために実地医療体系の中に音楽療法を取り入れることで、音楽療法の有効性を科学的根拠に基づき検証するとともに、音楽療法の成果を広く社会一般に対して普及・周知せしめるための事業を行い、もって社会全体の医療福祉の増進に寄与することを目的としています。
具体的には、下記事業を実施してまいります。
- (1)音楽療法の有効性を評価するための多施設との共同研究事業
- (2)音楽療法並びに医療への音楽の介入に関する調査・研究を通じて行う教育事業
- (3)音楽療法に関する情報及び研究成果の普及・啓発事業
- (4)音楽療法に関する資格制度の確立・認定・普及
- (5)音楽療法に関する機関誌及びその他の刊行物の発行
何卒、本趣旨にご賛同いただき、皆様の幅広いご参加とご支援をお願い申し上げます。